Monologue
8.思考力(2019/9/6)
1)思考力とは
年を取ってから外国語を学ぶのは容易ではないですが、幼少の頃であれば、容易に習得できてしまいます。理由としては、幼少の頃は新しい言語の音を習得しやすいということがあり、脳が言語体系の修得に柔軟であるという事があります。また、バイリンガルはトリリンガルになるのも難しくないと思われます。これは、異なる言語体系への切り替えが容易にできる資質が、大人になっても活かせるということであろうと思われます。
思考力をつかさどる前頭葉は、青年期まで発達するといわれていますが、言語体系の切り替えは、前頭葉を活性化させるとも言われています。私にとっては、時すでに遅しですが、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉部分の脳の一番外側にある大脳皮質は、一生を通じて発達するといわれていますので、私の思考力の発達は、まだ大丈夫であるだろうと考えています。
さて、思考力とはどういうものでしょうか。説明する人によって定義が異なりますが、ここでは、以下の10種類の能力で成り立っていると考えます。10個に順番は無いのですが、記載している順番で説明するのが、理解しやすいと思います。より良い思考をするためには、忍耐力も必要ですが間接的な力は含めていません。
(1) 意識力:自分がどうしたいのかが無ければ良い思考は生まれません
(2) 観察力:何について思考するのか、対象を素直に注意深く見る必要があります
(3) 記憶力:観察したことを記憶すると共に、関連知識が沢山蓄積されている方がベターです
(4) 整理力:関連知識を含めて、情報を目的に従って整理することが重要です
(5) 理解力:分からない部分を理解する力が求められます
(6) 構成力:目的に従って、情報を構成することが求められます
(7) 推理力:情報が足らない部分を類推することが求められます
(8) 創造力:過去にない新しい考えを作り出すことができればベストです
(9) 判断力:せっかく良い思考をしても優柔不断では報われません
(10)表現力:思考した結果を他人に分かり易く説明することが求められます
既存の情報を整理する以上のことが求められておらず、多くの人が当該分野の知識が豊富であったならば、これらの思考力を十分に発揮することが求められないかもしれません。しかし、意識が高く、新たな分野であるにもかかわらず複雑な状況で、しかも今までにない新しいことが求められるようなこともあり得ます。また、自分の能力が足りない部分を補ってくれる人が居なければ、これらの全ての能力を求められることもあるかもしれません。
データ分析において、思考力は無くてはならない能力です。自分の強みや弱みを理解し、協力者も考慮に入れて、ベストな結果が得られるようにしてください。また、能力の向上に努めてください。
2)記憶と思考
思考力は、先ず意識があって、熟考して、表現するまでを含めるものと考えました。思考した結果を複数並べて、他人に選んでもらうのではなく、ベストが何なのかまで突き詰めて考えることが求められます。しかし、人には、思考力の強みや弱みがあり、更に得意とする思考方法あります。
1人で黙々と考える人、多くの情報を集める人、多くの人と議論しながら考える人等が居ます。確かに、思考方法はそれぞれ異なりますが、それだけでなく、強みとする思考力のタイプも異なります。
記憶力が非常に強い人にも、写真記憶のできる人と連想記憶に強い人が居ます。写真記憶のできる人は、物事の因果関係に関係なく記憶ができるので、訓練しなければ思考力が養われないかもしれません。多くの人は、写真記憶なんて小説の世界の話であって、現実には無縁です。子供の頃には、写真記憶ができたという様な人が居る程度だと思います。つまり、ほとんどの人は、連想記憶に頼らざるを得ません。稀な話ですが、有名な将棋の名人に過去の対局を全て思い出せる人が居るそうですが、この方でさえも意味なく記憶することはかなわないそうです。
酸っぱい味と黄色いレモンの映像を連想して記憶することで、レモンを思い浮かべただけで、唾液が出てきてしまうという様な事が起こります。何かを学べば、神経細胞が結合されて記憶されますが、当該情報が使われないと結合は徐々に失われてしまい、当該記憶は忘れ去られてしまいます。しかし、多くの情報と結合していれば、使われる頻度も増します。また、繰り返し使われれば、結合は強化され、効率的に情報が流れるようになります。連想記憶があり、反復学習があり、より多くの情報と繋がることで有効な記憶として活用できるという事です。
さて、記憶は連想記憶が基本という事ですが、思考はどの様に行うのでしょうか。記憶と思考は、表裏一体なところがあります。思考の過程が記憶になり、記憶を通じて思考することになるからです。つまり、思考は、記憶に従って行われますので、連想して思考するという事になります。
極端な例ですが、写真記憶では連想しません。いつ何処の誰の状況情報の様にしか記憶されませんので、状況から思い起こすしかありません。しかし、連想記憶であれば、何かしらの原因があって何かしらの結果があったという様な因果関係があったり、類似性、順序性等の何らかの関係性があって記憶されています。2つの事象に対してだけではなく、情報が相互に関係しあって、多くの情報がネットワークの様に記憶されます。それが脳の中では、神経細胞のネットワークとして実現されています。多くの情報と繋がった情報が、強い結合で繋がった情報が思考でも有効活用されることになります。
しかし、ネットワークは複雑ですし、全ての結合を辿っていたのでは思考に時間が掛かってしまいます。予め、当該ネットワークが整理されていれば、思考も短時間で終わると思われます。頭の良い人とは、記憶の整理が行き届いている人のことでしょうか。
3)頭の良い人
頭の良い人には、人によって、場合によって、様々な定義があります。思考の10の能力のそれぞれに強い弱いがありますが、一般的には、記憶力が高い人、スマートな対応が出来る人、誰も気が付かないことを思い付く人、複雑なストーリーが思い描ける人、高度な仕組みが理解できる人、新しいことを創造できる人等が頭の良い人と言われます。例えば、意識が高いだけでは、頭の良い人とは言われません。意識の高さが思考力の強さに関わってくると思いますが、意識力だけでは評価されないという事です。
この頭の良い人の記憶のネットワークは、どうなっているかを考えてみると、2つの方向性が考えられます。1つは、ネットワークが横に、面に繋がっているケースです。もう1つは、ネットワークが縦に、立体的に繋がっているケースです。
横に繋がっているケースでは、多くの情報が、多くの関係性を持って繋がっており、分野を超えて、様々な思考が出来る人が想定されます。これが、様々な人の行動と繋がっていれば、スマートな対応が出来る人ということになり、関係性が強い分野に応じた頭の良さに繋がると思われます。
縦に繋がっている人というのは、極端な例ですが、アインシュタインの相対性理論が理解出来る人などです。つまり、いくつもの公理・定理等が組み合わさって理論が完成されているような情報を組み立てられるという人です。数学や物理の分野だけでなく、複雑な仕組みが理解出来て、考えることが出来る人です。
もう少し話を発展させてみましょう。例えば、頭の回転が速い人というのが、一般的には頭の良い人の中でも筆頭といえるでしょう。頭の回転が速い人は、直ぐに関係する情報が思い出されるという事ですので、横のネットワークが強いと考えられます。但し、深耕するということは得意ではないかもしれません。
縦のネットワークが強い人は、何より深耕することが得意な人といえます。集中力が高い人でもあります。最終的な回答に至るまでに縦の階層をすべてクリアしなければなりませんので頭の回転が速いという印象を他人に与えないかもしれません。
情報システムの開発において、その初期段階の基本設計ができる人は、縦のネットワークが強い人です。システムの概念から詳細までを構成できる能力が必要とされます。小説を書ける人はどうでしょうか。多くの場合、一般の人が知らない様々な知識があって、それを物語として構成していける能力も必要ですので、縦にも横にも強い人といえます。特定の分野に限った小説家であれば、縦にだけ強ければ良いのかもしれません。いずれにしても、観察力に秀でた人であろうと思います。
最近は、スマホで直ぐに調べる人が増えていますが、インターネットのWoldWideWebの情報は、まさしく横のネットワークです。今までは、知識が豊富な人、頭の回転が速い人が重宝されていましたが、現在ではその地位をスマホに奪われつつあります。しかし、自分で考えることなく何でも直ぐに回答を求めるという傾向は、考えるという習慣を阻害してしまう可能性もあります。横でも縦でも良いですが、自分の特性を生かして、考えるという習慣をつけてもらいたいものです。
データ分析で重要なのは、データに対して、人間が深層学習することです。AIではなく、人が深く考え、その整合性を確認するのですから、リアルディープラーニングと呼べるかもしれませんます。これからの世の中は、縦に強い人が頭の良い人の筆頭になるのかもしれません。
4)新しい考え
深層学習が喧伝され、何でもかんでもAIという風潮がありますが、現時点のAIには、多くの限界があります。その最たるところは、新しいものを考え出す力が弱いという事です。与えられた情報から最適解を考え出すことは可能ですが、新しいものを考え出すことは難しいといえます。
人間は、幼い頃に多くを学びます。基本的な知覚能力と考えることの基本を学びます。多くの場合、大人になるまでにその思考方法は固まってしまいます。新しいことに対する興味は薄れ、それまでに蓄えてきた知識を元にして判断しようとしてしまいます。知識のパターン化が行われ、新しい情報は、蓄積されたパターンに照らし合わせて判断しようとします。まさしく、AIと同じことをやっています。判断を早くした方が良いという本能に従い、パターン認識ができるように神経細胞のネットワークが築かれていきます。AIがこの人間の思考方法をまねているのですから似ていて当たり前です。
こうなってしまうと、その人は、多くの人から頭が固いといわれます。年齢を重ねるごとにその傾向は顕著です。もちろん、パターンを少しずつ見直しながら思考力を高めていきますが、その程度のことは、AIも行います。つまり、現在のAIは、頭の固い人と同程度と言えるかもしれません。しかし、AIは人間より記憶力が圧倒的に高く、記憶を追加することも簡単ですし、同じ情報に対して答えがブレることもありません。つまり、頭の固い人間では、AIに劣るかもしれないという事になります。人間には、AIにはない魅力が沢山ありますが、思考力という点では、かなわないかもしれません。
しかし、AIが思考力において、人間を超えたとは思えません。人間が勝っていることは沢山ありますが、最も重要なのは、先に述べたように、人間は新しいことを考えつくことが出来るという事です。横のネットワークが強い人も縦のネットワークが強い人も、新しいことを考えつくことが出来ます。
例えば、新しい商品・事業等を考え出すことは、AIにはできません。現時点のAIの知識は、写真記憶に近いものですので、どれだけ多くの知識を持っていたとしても、記憶のネットワーク化が図られていないので、新しいことを生み出せないのです。深層学習では、知識のパターン化を行い、パターン毎のネットワーク化は行われますが、頭の固いAIにできるパターン化のテーマは1つです。将棋のAIに碁は打てません。そのうち、将棋と碁の両方ができるAIが現れるかもしれませんが、そのように人間が仕向けるしかありません。
新しい商品・事業等を考え出すには、通常は3つの方法があります。「置き換え」「組合せ」「新規」の3種類です。「置き換え」とは、異なる分野のものを新しい分野に適合させるという事です。「組合せ」とは、既存のものを組み合わせて、新しいものを創り上げるという事です。いずれも、そのまま置き換えたり、そのまま組み合わせるだけでは、商品や事業として成り立ちませんので、総合的な判断をして、改良することで生かせるようにするというものです。単に文章を作る、曲を作るという程度であれば、AIでも組合せなどで可能かもしれませんが、新しい商品・事業等となると複雑すぎて総合的に判断することが出来ません。「新規」とは、過去に似たものが無いという場合ですが、実際には、「置き換え」「組合せ」の複合的なものであることが多いと思います。A商品とB商品の間のものをC商品と組合せて、新しい分野に持ってくれば、新しい商品として売り出せるのではないかという様なヒラメキがあって、商品化に進むという様な事です。いずれにしても、複雑な総合的な判断が必要になります。
人間は、このような複雑な判断が可能です。例えば、横のネットワークが強い人は、自然の植物の営みから、新しい物流の事業を考えつくかもしれません。縦のネットワークに強い人は、全く異なる複数の商品の本質を見抜き、関係性を整理して、新たな商品として組み立て直すかもしれません。
現時点のAIは、決められた方法でデータ分析はできますが、新しいデータ分析を考え出すことはできません。しかし、人間は、目的があれば、様々な手法を駆使してデータ分析ができます。AIをツールとして活用することも出来ます。また、データを探索的に解析することで、新しい分析目標が定まる場合もあります。枠にとらわれることなく、柔軟な対応ができるのも人間の特徴です。頭の固い人には、データ分析はできません。